西は文化と文化がメガミックスされた街・秋葉原、東はあたたかな問屋街・浅草橋の中間地点に、社会貢献をテーマとする複合施設、Cocts(コクトス)ができた。
コロナ禍による人の移動制限、ホテル事業の意味が問われる中、新しい形の施設を運営することとなったPLAY&Co 代表・中島庸彰が新たに見つけた文脈、それをクリエイティブディレクター・塚田圭亮が具現化した内装からプロダクトまで、ひとつひとつを大いに語っていく。
––––– お二人のつながりができたきっかけから聞いていきたいと思います。
ツカダ:以前開業講座に招聘された際に、中島さんも同じく講師をしていて、そこで初めてお会いしましたね。
ナカジマ:あ、初めはそんなでしたね!僕は恵比寿のバーが印象に残っていますね。塚田さんにちゃんとお願いしたのはそこからだったので。
ツカダ:あ、ありましたね。その後に上野の『茶庵上野』を手掛けさせていただいて、今回のCocts Akihabaraにつながると。
ナカジマ:時間にしてみると8年、9年!かなり長い仲ですね。うちのプロジェクトのデザイン関係はいつも塚田さんにご相談させていただいてて、パースやコンセプトだったりかっこいいものがいつも仕上がってくるんです。塚田さんみたいにクリエイティブもコンセプト作りもできて、かつ手を動かせる人って全然いないので、いろいろなホテルをやらせていただく中でも何度かお願いしているという次第です。以前作っていただいた「茶庵上野」も素晴らしくて…。実は塚田さんと私は学年が一個違いの同い年なのですが、正直リスペクトしかないです(笑)。
––––– 早速Coctsについて聞いていきたいのですが、これまでに作った施設や他のホテルとの違いはどこにありますか?
ツカダ:まず初めに、僕はSDGsというキーワードを中島さんよりいただきました。
ナカジマ:そうでしたね。このSDGsというキーワードについてなんですが、まさにこれはコロナ禍に入ってから社内で意識され始めたキーワードです。
というのも、これまで我々のホテル事業は宿泊されるお客様のなかでも7~8割を占める海外からのお客様をメインターゲットとしていました。
スタッフも、アルバイトを含めて全員英語が話せたり。とにかく皆、コミュニケーションが大好きなので、世界中から集う旅人たちがつながる空間を作っていこう!というコンセプトでホステルやホテルを経営していました。しかしコロナ禍に入ってから海外からのお客様が来なくなり、さらに国内の移動も制限され、ホテルの需要がなくなり、もっとも大事にしていた、人と人とのコミュニケーション自体も極力避けなければいけなくなりました。
会社の生き残りのために、思い出の詰まったホテルを解約し、営業してるほうが赤字になるから、と休業させ、賑わってたラウンジに、まったく人がこなくなったホテルを見たときに、
「僕らの会社って何のために宿泊事業をやっているんだっけ?」と、今一度会社の存在意義を考える機会になりました。
ホテルは作る時にも、大量の資材を使ってつくられ、営業すれば水道ガス電気などのエネルギーも大量に使うので、環境への負荷も高い。その上、宿泊需要がなくなり、閉鎖ともなれば、また大量の廃材が出てしまう事業です。
ナカジマ:考えていくうちに、「僕らが拡大していくにつれて、周りの地域、ゲスト、そこで働いている人たちを取り巻く社会がより良いものになっていく」というものじゃないと存在する意味がないなと考えて、その時から次に作るホテルは、
「ぼくらの成長が、より良い社会につながるように」
と思い、塚田さんに相談させてもらいました。
また、多用途であることも重要だと思いました。従来のホテルは寝室を提供するもので、ベッド・枕があってここに一泊いくらで泊まる、っていうようなものですが、ホテルを含めたこれからの不動産は、可変性をもち複数の用途に耐えられる作りであるほうが、どんな時代でも需要を取っていけるんじゃないかなと思いました。
ナカジマ:お客さんがその”箱”を寝室として使うのか、
ワークスペースとしてつかうのか、もしくはパーティスペースなど。
どのように使うのかはお客さん自身が選んでいけるような場を作りたいなと思って。
ネーミングに関しても、最初はホテルらしいネーミングだったんですけど、ホテルと、用途を限定するのではなく、
Complex=複合
という文脈を与えたい!ということを塚田さんに伝えさせていただきました。
ツカダ:その思いをお客様にきちんと伝えていくためには、ブランディングからしたほうがいいということで、一緒にブランドコンセプトから作っていきましょうという形となりました。
––––– ブランドコンセプトは具体的にはどのように作られたのでしょうか。
ツカダ:「ブランド」という言葉は家畜に自らの所有物だという証で焼き印を押したのが起源で、現代においては他者と差別化してお客様に伝えることそのものが「ブランディング」という言葉の意味になっています。
一つの大切な考え方としてブランドコンセプトという、短くて記憶に残りやすく伝言できるキーワードを作るんですが、支配人・従業員など、当事者意識を持っていて欲しい方をお呼びして、共にワークショップを通してブランドコンセプトを作っていくことをしました。
ツカダ:デザイナーが勝手に作ってサヨナラ、ではなくスタッフの方々が主体となり作っていくことで、自走してアップデートが続けられるようになる。そのための下地作りとしてワークショップに参加していただきました。
まず「うちにあって他社にないもの」をブレインストーミングしてもらいました。
・アルバイトを含めて英語が話せる
・複数ホステルを経営しているため運営能力が高い
などをメインに色々出ましたね。
自分たちの強みを共有して共通認識化する、その後にブランドコンセプトを自由に意見しあうことでブレインストーミングをしていただきました。
そこから1点や2点、関係性があったワードを選び出し、そのワードに沿ったブランディングを磨いていけば、他者が追随することが難しくなるというロジックで進めています。そしてこれが最終的なコンセプトになります。
–––– エントランスを入ってすぐの壁面にコンセプトが目に入りますね。
ツカダ:初めは「社会貢献を日常に」というキーワードが出て、仮でそれを作ってお互い持ち帰ってもらい、1〜2週間後に出たのが「社会貢献って四字熟語は固いよね」と意見が出て、そこで最終的に出たのが “誰かのために、を日常に” っていうキーワードだったんですね。
これが最終的に皆さんが「グッとくる!」ということで、
このブランドコンセプトをもとに
・経営戦略
・サービス
・各種ビジュアライズ展開
について考え始めました。
ツカダ:各ビジュアライズはネーミング、ロゴ、空間、サイン、ショップカードとグラフィックの展開をするのですが、まずネーミングは
Complex (that) contribute to someone
“誰かのためにを日常に”の英文を縮めて
Cocts
と決めました。
シンボルマークは輪違い紋という、手を取り合うような意味の文様をベースに、色々なパートナーシップを足していくことで桜の花びらのように仕上げました。
ツカダ:ロゴタイプとしては、いろんなものが繋がっていくというのを筆書体で表現。そしてまさにここがたまり場であるように、液だまりをつけた筆書体にしたりと、ブランドコンセプトを反映したものになっています。
ツカダ:フロントは地産地消と花粉症対策への貢献を主題に、地元多摩の杉材を豊富に使いながら、同時に、花粉の少ない杉に植え替える活動に協賛してもらっています。また、水回りは既存レイアウトを活用することで、資源やエネルギーを無駄に使わないとか、そういうところにも気を使って空間を作って行きました。
ツカダ:ラウンジスペースは、床のレベルの違いによって使う材が変わってて、写真右の方は仕事がしやすい手触りの材を使って、左奥の方はリラックスしたい人が使うような材を使う工夫を凝らしています。
ツカダ:来る人の状況によって使い方は変わるんですけど、そこに来る人は皆社会貢献に興味を持っているという共通認識があるので、
テーブルが連続性を持たせてつながりを与え、ある時は各自作業をしたり何か食べたりするけど、ふとしたきっかけでここで他の人と喋れたりするような空間を目指して作りました。
ツカダ:サインデザインのお話としては、実は部屋番号の表記ってかなり重複した情報が含まれているんですよね。例えば、4階だったら401、402と番号を振っていきますが、このうち、ヨンマルの部分が重複しています。
ツカダ:なので、部屋番号の前半部分はセクションごとのドアに、そして後半部分を居室に割り振ることで重複を避け、資源の使用量を抑えつつ、識別機能を持たせる、というロジックで構築しました。
––––– どのようなサービスを通じてコンセプトを達成するのでしょうか。
ナカジマ:今、リフィルステーションが受付横に付いているんですが、まさにコンセプトを表す一つだと思っています。
ナカジマ:ものとしてはシャンプーやコンディショナーが置いてあるんですけど、今社会問題として洗剤の過剰使用や、アメニティの廃棄問題、マイクロプラスチックや限りある水資源の保全といった問題があります。
そこで、宿泊されるお客様が、自分が必要な分だけを取っていくのはもちろん、近隣の人がボトルを持ってくれば詰め替えられる。そんな体験を通じて、日常の中に「あ、こういう選択肢があるんだ」みたいな気付きの機会をつくる。それも含めて「泊まるだけで社会貢献ができる施設」になっていくといいなと思っています。
シャンプー類を選定するにあたって、取引できる会社がなかなか見つからなかったんですけどようやく見つけたのが、松山油脂さんの「LEAF&BOTANICS」。
ここは、詰め替え用の容器さえなくそうとするために、リフィルステーションを商品として展開している会社で、コクトスが2番目の設置店舗にあたるそうです。
リフィルステーションの設置店舗が増えていくと、シャンプー類を取り巻く問題への理解が増えていくのではということで、これもまた社会貢献のひとつかと思います
ツカダ:ショップカードは地域の布問屋さんとタッグを組んで、廃棄されるものあるいは倉庫で眠っていた端切れを活用しています。また、紙面の情報は2つに分け、お客様にスタンプを捺してもらうことではじめてショップカードが完成するようにしました。
ショップカードは小さいツールではありますが、それ一つをとっても、持続可能性の高い取り組みに参加できる、そんな体験を通じてお客様とスタッフのコミュニケーションのハードルを下げ、お客様が能動的に情報を得やすくなるよう考えています。
––––– 建物の外観もかなりいい雰囲気だな、と思ったのですか、これは当時のままですか?
ツカダ:元々はオフィスビルで、外装はその当時のままです。
エントランスはコールテン鋼という、鋼材の最大の弱点であるさびを、さびによって防ぐ素材を採用しています。これにより環境負荷を低減しながら、元の建物の趣にマッチした、質感のあるエントランスに仕立てています。
––––– 浅草橋と秋葉原の中間地点に位置していますが、どんな面白みがありそうでしょうか。
ツカダ:中島さんの運営するホテルがこのあたりに転々としていて、地域コミュニティを作りやすい素地があるんじゃないかとおもいます。
ナカジマ:ドミナント展開しているので、他施設と連携して運営しやすいというのは、弊社としてはあります。
また、このプロジェクトはこの建物ありきでスタートしたので、そこをどう活かすかという話ではあったのですが、秋葉原はよく知られているように、日本のカルチャーの発信地ですし、また古くは電気街として発展してきたことから、先進的な空気が流れています。一方浅草橋はどちらかといえば職人さんやものづくりみたいな強みのある地域で、比較的地域性やローカル感みたいなものを味わえるエリアになると思います。ですので、西へ行けば便利さも享受できるし、東に行けばローカルの静けさ・ディープさを体験できる、さまざまな魅力も発信しやすいエリアなのかなと思っています。
––––– 地域とはどういった繋がりを持っていきたいと考えていますか。
ナカジマ:実は早速一階にポストがつきまして。今後シェアオフィス機能も持たせられたらな、と。
ツカダ:いつの間に。笑
ナカジマ:先ほど(前回参照)も言いましたが、これだけ時代の流れが早いと、10年前に作った建物が今あまり機能していない、みたいなことが起こっていいます。ショッピングモールとか駅前の商業施設もたくさんあるけど要る?など。もしコロナが収束したとして、そういった施設に人が戻っていくかというと、そんなことはなさそうだし、本当に必要な施設って、作られる数に対してそんなにたくさんはいらないのではないかと思います。
ナカジマ:そう言った流れにあって、これからの不動産は、時代にあった可変性をしっかり意図していないといけないと思います。
ナカジマ:オペレーション自体も、機能を兼用するマルチオペレーションにしていくことが必要なんじゃないかと思っていて、フロントスタッフがクラウドキッチンの手伝いをしたり、シェアオフィスのチェックイン受付をしたり清掃スタッフもそれに含めたり。
ナカジマ:今後サウナみたいなのもしたいと思っているんですが、一つの箱の中でいろんな機能を有してオペレーションもマルチにできると、の価値がさらに長続きするんじゃないかと思います。
ナカジマ:そうすることで、お客さまもいろんな用途でここを利用することができるようになります。泊まりにでなくても、ご飯だけ食べに行こうとか、ママ会やろうとかお客さんが選んでくれるような運営等もできるといいと思います。
––––– 今後についてお聞かせください。
ナカジマ:これからトライしていきたいことはたくさんあるのですが、今実装しようとしているものとしては、地域の子供たちに向けた、こども食堂みたいな機能も入れようか、ということを考えたりしています。
ここをどうしたら地域の人たちがここにゆるっと来れるのか?どうなったらここが愛されるのか?みたいなことは、ここが地域の課題を解決できる箱にならないとどうにもならないと思うので、案として出ているのが「子ども食堂」みたいな機能の提供かなと。
ナカジマ:一階にはすでにクラウドキッチンとして2店舗、飲食店があるので地域の子どもに対しては無償でなにかを提供したりというところで、まずお子さんから入ってもらえることが地域にとっても入っていきやすいのではないか、ということを考えています。
ナカジマ:社会課題として子供の貧困率、特にシングルマザーの家庭のうち50パーセントは貧困に陥っているという事実があるので、僕らの施設をもってそこに手が届くようにできたらと思っています。
ツカダ:地域にどうつながっていくか、の話なんですが、
コミュニティ論の考えとしては、
・父と子等の血縁の繋がりであるコミュニティ「血縁コミュニティ」
・テーマでつながる「テーマコミュニティ」
・家がお隣さん同士等の地域でつながる「地域コミュニティ」
の三つに分類できるんですけれど、近年の都心部では二軒隣の家とは話すことがなくなったりと、もう地域コミュニティはほぼなくなってきています。
ツカダ:今回のCoctsは「社会貢献」というテーマコミュニティで繋がることを主軸としていますが、+αとして、地域コミュニティでの繋がりにも目を向けていく。これはマーケティング的視点では、経営資源が限られていますから、テーマコミュニティ×地域コミュニティで、セグメントを絞って取り組むということ。つまり、社会貢献というテーマで、まずは地元の方からいろいろなものを還元していこうというのは、いいなと。結果、早く成果がでるんじゃないかなと思いました。
––––– これから自走していくCoctsの進化を見守っていきたいと思います。
中島さん、塚田さん、ありがとうございました。
執筆/編集:佐藤 開斗・林 海人